インクルーシブエイジングデザインラボ

デジタルツールが拓く高齢者共創デザインリサーチの実践:距離と多様性を超えるインサイト獲得法

Tags: 共創デザインリサーチ, デジタルツール, 高齢者向け製品開発, インサイト獲得, オンラインリサーチ, ハイブリッドアプローチ, 製品企画

高齢化社会の進展に伴い、製品開発や企画に携わるビジネスパーソンの皆様にとって、高齢者層のニーズを深く理解し、それに基づいた価値ある製品やサービスを創出することは喫緊の課題となっています。特に、一方的な視点ではなく、高齢者の方々と共に価値を創造する「共創(Co-creation)」デザインリサーチの重要性は増しています。

しかし、「距離の問題」「参加者の募集」「多様なニーズへの対応」といった実践上の課題も少なくありません。本記事では、これらの課題を乗り越え、より効果的でインクルーシブな共創デザインリサーチを実現するためのデジタルツールの活用方法と、その実践的なアプローチについて解説します。

高齢者共創デザインリサーチにおけるデジタルツールの重要性

高齢者との共創デザインリサーチにおいて、デジタルツールは以下のような多岐にわたる価値をもたらします。

  1. 距離の壁を超越する: 遠隔地に住む高齢者や、外出が困難な方々ともオンラインで繋がることで、地理的な制約を解消し、より多様な参加者をリサーチに招き入れることが可能になります。
  2. 多様なニーズへの対応: 高齢者層は決して画一的ではなく、生活環境、デジタルリテラシー、身体能力、価値観など多岐にわたる多様性を持っています。デジタルツールを適切に組み合わせることで、それぞれの状況に応じた参加機会を提供し、より包括的なインサイト(顧客自身も気づいていない、行動の根源となる深層心理や欲求)を引き出すことができます。
  3. データ収集と分析の効率化: オンラインでのアンケート、インタビュー、ワークショップは、記録やデータ化が容易であり、その後の分析プロセスを効率化します。
  4. リアルタイムな共創の実現: 共有画面やオンラインホワイトボードを活用することで、プロトタイプ(試作品)に対するフィードバックをリアルタイムで得たり、共同でアイデアを発想したりすることが可能になります。

これらの利点を最大限に引き出すためには、デジタルツールの特性を理解し、高齢者の方々のデジタルリテラシーに配慮した設計が不可欠です。

オンライン共創デザインリサーチの具体的な手法

デジタルツールを活用したオンライン共創デザインリサーチには、様々なアプローチがあります。ここでは、主要な手法とツールの活用例をご紹介します。

1. オンラインインタビュー・フォーカスグループ

概要: Web会議ツールを用いて、高齢者の方々から直接話を聞き、深い洞察を得る手法です。 活用ツール: Zoom、Microsoft Teams、Google Meetなど

実践のポイント: * ツールの選定と事前準備: 参加者のデジタルリテラシーレベルに合わせ、操作が比較的簡単なツールを選定します。事前に接続テストやツールの使い方に関する丁寧なガイダンスを提供することが重要です。必要であれば、ご家族や支援者の方の協力を得ることも検討します。 * ファシリテーションの工夫: オンラインでは非言語情報が伝わりにくいため、ファシリテーター(会議やワークショップが円滑に進むよう支援する役割)はより明確な問いかけと、参加者への目配りが必要です。発言の機会を均等に配分し、聞き取りやすいペースで進行することを心がけましょう。 * 記録とプライバシー保護: 参加者の同意を得た上で、録画や文字起こし機能を活用すると、後からの分析が容易になります。ただし、個人情報の取り扱いについては厳重な注意と、事前の明確な説明が求められます。

2. オンラインアンケート・日記調査

概要: Webアンケートツールや、オンラインで日々の行動や感情を記録してもらう日記調査を通じて、定量的・定性的なデータを収集する手法です。 活用ツール: Google Forms、Typeform、SurveyMonkeyなど(アンケート)、オンライン日記サービスやチャットツール(日記調査)

実践のポイント: * 設問設計の配慮: 高齢者の方々にとって理解しやすい平易な言葉で設問を作成し、回答負担が大きくなりすぎないよう、設問数や回答形式を工夫します。 * 複数媒体での提供: デジタルツールに慣れていない方向けに、紙媒体でのアンケートや、電話でのヒアリングと併用するハイブリッドなアプローチも有効です。 * 日記調査における寄り添い: オンライン日記調査では、定期的な進捗確認や、不明点に対するサポート体制を整えることで、参加者のモチベーション維持と質の高いデータ収集に繋がります。

3. デジタルプロトタイピングとフィードバック

概要: 製品やサービスのアイデアをデジタル形式のプロトタイプに落とし込み、オンラインで共有して高齢者の方々からフィードバックを得る手法です。 活用ツール: Figma、Miro、Adobe XDなど(UI/UXプロトタイピング)、Canva(簡易的なデザイン共有)

実践のポイント: * プロトタイプの分かりやすさ: 複雑な操作を要するプロトタイプではなく、直感的に理解・操作できるシンプルなものを用意することが重要です。 * インタラクションの機会: 実際に画面を触ってもらう(共有画面上で操作してもらう)ことで、より具体的な使用感を把握できます。 * 共創の場としての活用: MiroやJamboardのようなオンラインホワイトボードツールを用いて、プロトタイプを共有し、参加者がコメントを書き込んだり、アイデアを出し合ったりする共創ワークショップを開催することも有効です。

オフラインとデジタルの融合:ハイブリッドアプローチの優位性

デジタルツールは強力な味方ですが、オフライン(対面)での共創が持つ「深い共感」「五感を伴う体験」の価値は代替できません。そこで推奨されるのが、オフラインとデジタルを組み合わせた「ハイブリッドアプローチ」です。

例えば、初期の深いニーズ探索は対面でのインタビューやエスノグラフィー(文化人類学的な観察手法)で行い、その後のアイデア出しやプロトタイピングの評価はオンラインツールで効率的に進める、といった組み合わせが考えられます。また、共創ワークショップの場でも、対面で集まりながら、MiroやJamboardといったオンラインホワイトボードを大型モニターに映し出し、参加者全員がデジタル上でアイデアを書き込む、といった活用も可能です。これにより、物理的な制約を緩和しつつ、対面ならではの臨場感と、デジタルならではの記録性・共有性を両立できます。

デジタル共創デザインリサーチを成功させるためのポイント

デジタルツールを活用した共創デザインリサーチを成功させるためには、以下の点に留意することが重要です。

結論

デジタルツールの活用は、高齢者との共創デザインリサーチに新たな可能性をもたらします。距離や物理的な制約を超え、多様な高齢者の皆様から深いインサイトを引き出すことで、真に必要とされる製品やサービス開発へと繋がります。

製品開発や企画に携わるビジネスパーソンの皆様には、これらのデジタルツールとハイブリッドアプローチを積極的に取り入れ、高齢者の方々の豊かな経験や知恵を製品・サービス開発に活かしていただきたいと願っています。デジタル技術を賢く使いこなし、インクルーシブな社会の実現に貢献する製品・サービスを共に創造していきましょう。